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VOICE Vol.27

正しい知識で「胃食道逆流症」と向き合う

胃酸を含んだ胃の内容物が食道に逆流することで様々な症状や合併症が起こる「胃食道逆流症(GERD[ガード])」は、成人だけでなく、小児にもみられる消化器の疾患です。赤ちゃんから思春期ごろのお子さんまで、発症する年齢層は幅広く、見過ごされてしまうと成長障害や呼吸器感染症などの原因となることもあるため注意が必要です。
今回は、小児の栄養と消化器病のエキスパートとして多くのお子さんの診療にあたっておられる順天堂大学医学部 小児科学教室 主任教授の清水俊明先生に、小児のGERDの原因や症状、診断と治療などについてお話を伺いました。

先生は普段どんな小児の患者さんを診察しておられるのですか?image

体重増加不良や成長障害などの栄養が問題となっているようなお子さんや、便秘、腹痛といった消化器の症状を訴えるお子さんを診察することが多いですが、最近では、クローン病や潰瘍性大腸炎などの消化管の炎症性疾患も増えてきています。小児のGERDは成人ほど多くはないのですが、40週の妊娠期間を待たずに産まれた未熟児から思春期までの幅広い年齢層のお子さんに認められます。また、重症の心身障害を持つお子さんも色々な原因からGERDを起こしやすくなっています。

逆流はどのようにして起こるのでしょうか?image

食道と胃の境目には下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)があって、これがしっかりと締まっていれば胃から食道に逆流を起こすことはありません。この下部食道括約筋の圧が弱かったり、太っていて腹圧が高いために胃が圧迫されていたり、あるいは健康な人でもげっぷなどのときには下部食道括約筋が一時的に緩みますが、緩む頻度が多いと逆流が起きやすくなります。また、乳幼児に多くみられる胃軸捻転(胃がねじれてしまう病気)や、重症心身障害のお子さんに多い食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニア(胸部と腹部を隔てている横隔膜を超えて、胃が胸部のスペースにはみ出してしまう病気)なども逆流の原因となります。さらに、乳幼児の胃は大人のように膨らんだ形をしていないため寝転んだ状態だと逆流しやすいという胃の構造上の問題や、アレルギーが背景にあることもあります。大人のGERDはアルコールや喫煙、暴飲暴食といった生活習慣が原因となっていることが多いのに対して、小児では先天的、解剖学的な異常によるものが多いことが特徴です。

どのような症状があらわれるのですか?image

嘔吐が最も多い症状ですが、逆流した胃酸が食道を傷つけて逆流性食道炎を起こし、吐いたものや排便に血が混じる吐血・下血、大人で言うと食欲の低下である哺乳力の低下、反芻運動といった消化器の症状や、慢性の咳やゼーゼーという喘鳴、繰り返す呼吸器感染症などの呼吸器の症状があります。また、乳幼児突然死症候群の前段階である乳幼児突発性危急事態(ALTE[アルテ])や、新生児の無呼吸もGERDが原因となって引き起されることがあります。ほかにも、逆流による喉の痛みや哺乳力の低下による体重増加不良、不機嫌など、症状は非常に多彩です。胸やけはGERDの典型的な症状のひとつですが、小児では胸やけを腹痛や喉や胸のあたりの不快感として訴えることが多いです。

診断はどのように行うのですか?image

GERDを疑う症状があった場合に、いくつかの検査を行って診断します。まずは、X線検査で胸とお腹のレントゲン写真を撮って肺炎や便秘の有無を確認したり、超音波検査で逆流が起きているかどうかを確認します。最終的には、バリウムなどの造影剤を使った造影検査で食道、胃、十二指腸の形や動きをみたり、食道のpHを測定して逆流の有無を確かめるpHモニタリング検査を行うこともあります。

治療について教えてください。image

治療はまず生活習慣の改善から始めます。乳幼児では、授乳後はすぐに寝かせず縦抱きにしておく、きちんとげっぷをさせるということが重要ですし、とろみのついた増粘ミルクや、ミルクアレルギーが疑われる乳幼児ではアレルギー用ミルクの使用も有用です。また、少量ずつ頻回に授乳する方法も一つの対策としてあげられます。もう少し年長になると、便秘の解消や、肥満児では減量、チョコレートや香辛料などの刺激物の摂取を避けるといったことを指導しています。
こうした生活指導で改善しない場合に、薬物治療を行います。胃の動きをよくして胃の内容物を十二指腸に流れやすくしたり、下部食道括約筋の圧を強めることで逆流を起こしにくくする消化管運動改善薬や、胃酸の分泌を抑える酸分泌抑制薬などを使います。酸分泌抑制薬にはH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬(PPI)がありますが、いずれにしてもお薬には有効性や安全性がしっかり確認されているという意味で、小児に適応があるということを重視しています。また当院では、お薬を服用しているお子さんのご家族に服薬の状況と嘔吐の頻度・量などを日誌につけていただき、お薬の効果を判断するようにしています。
これらの生活指導や薬物治療で改善しない重症のGERDの場合には、外科手術が行われることもあります。

GERDかもしれないとお考えのお子さんをお持ちの家族の方へアドバイスをお願いします。image

乳幼児には母乳やミルクの吐き戻しはよくみられる現象ですが、こうした溢乳(いつにゅう)はだんだんとよくなっていく傾向があります。しかし実際には、逆流による吐き戻しと溢乳の違いを見極めるのは難しいですから、吐き戻しの頻度や量が多いという場合には、あまり躊躇せずに積極的に医師に相談していただければと思います。
GERDという病的な吐き戻しがあるということ、またGERDを見過ごしてしまうと体重増加不良や吐血などの重大な状態を招く可能性があることをご理解いただいた上で、お子さんにGERDを疑うような吐き戻しなどの症状が続く場合には、医師への相談、可能であれば消化器を専門的に診てくれる病院での受診をお勧めしたいと思います。

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総監修 清水 俊明(しみず としあき)先生
順天堂大学医学部小児科学教室 主任教授、
日本小児科学会(専門医・指導医、執行理事)、
日本小児栄養消化器肝臓学会(認定医、副運営委員長)、
日本消化管学会(胃腸科専門医、代議員)、
日本H. pylori学会(H. pylori感染症専門医・指導医、評議員)
1983年順天堂大学医学部卒業、
1988年同大学大学院医学研究科卒業。
1989年順天堂大学医学部小児科学教室 助手、
1990年スウェーデン・イエテボリ大学 小児科留学、
2001年オーストラリア・アデレード大学Child Nutrition Research Center留学を経て、
2007年4月順天堂大学医学部小児科学教室 准教授。
2007年8月より順天堂大学医学部小児科学教室 主任教授。
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