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VOICE Vol.28

正しい知識で「胃食道逆流症」と向き合う

近年、日本人に増えている消化器の病気の一つに「胃食道逆流症(GERD[ガード])」があります。GERDとはどのような病気で、日常生活にはどのように影響するのか。また、診断や治療はどのように行われるのかについて、今回は、消化器の専門家として多くのGERD患者さんの診療にあたっておられる順天堂大学医学部 消化器内科 教授の永原章仁先生に、お話を伺いました。

GERDとはどのような病気ですか?image

胃酸を多く含んだ胃の内容物が食道に逆流することでつらい症状が起こったり、食道に傷ができてしまう病気です。通常、食道と胃のつなぎ目は胃液が逆流しないように締まっていて、食べ物が通るときだけゆるみますが、GERD患者さんは、このつなぎ目がゆるむ時間が長くなり胃液が食道に逆流してしまうのです。
胃液の逆流で食道が傷ついた状態を逆流性食道炎と呼びますが、食道炎はあるけれど症状が無い方、食道炎は無いけれど症状だけがある方、食道炎と症状の両方がある方など、様々なGERD患者さんがいらっしゃいます。

どんな世代に多い病気ですか?image

中高年の方に多い病気です。中年の方の場合には肥満が一つの原因となっていて、太っていると腹圧が高くなり、胃の内容物が食道の方に押し上げられやすくなります。また、暴飲暴食や飲酒、喫煙などの生活習慣もGERDに関係しています。
高齢者では、食べ物などを胃に送るための食道の運動(蠕動運動[ぜんどううんどう])が弱くなっていて、逆流した胃酸が胃に戻りにくいためにGERDになりやすいということがありますが、これに加えて骨粗鬆症で背中が曲がってくると食道裂孔ヘルニア(胸部と腹部を隔てている横隔膜を超えて、胃が胸部のスペースにはみ出してしまう病気)により胃液が逆流しやすくなったり、寝たきりの方では逆流した胃液が長く食道にとどまってしまうため、GERDを発症しやすくなります。

GERDになると日常生活にはどんな影響がありますか?image

GERDの典型的な症状は胸やけと呑酸[どんさん](酸っぱい水が上がってくる感じ)です。症状があると患者さんは非常に辛くて、睡眠障害、仕事に集中できない、食事をおいしくとれないなど、生活の質が低下してしまいます。

診断について教えてください。image

逆流性食道炎は内視鏡検査で診断します。内視鏡は、逆流症状が胃がんや胃潰瘍などのほかの病気による症状かどうかを診断するためにも大切な検査です。GERDを疑った場合、内視鏡検査を行いますが、健診などで定期的に内視鏡検査を受けている方で、胸やけや呑酸で来院された患者さんに対しては、症状からGERDと診断をして、治療を行う場合もあります。
胸やけは、患者さんによっては「みぞおちの辺りがチリチリする」や、胃の辺りの不快感として「にやにやする」など地域によって独特の言い回しで表現されることがあります。また、GERDの症状は、胸やけや呑酸だけでないことに注意する必要があります。胃痛や胃もたれといった症状は、「機能性ディスペプシア(胃潰瘍などが無いにもかかわらず、胃もたれや胃痛がある)」という病気の症状として知られていますが、じつは多くのGERD患者さんも感じている症状です。例えば胃もたれで来院された患者さんに対しても、「前屈みになると、酸っぱい水が上がってきますか?」というように注意深く問診して、GERDを見逃さないようにしています。

治療について教えてください。image

GERDの辛い症状は1日でも早く改善しなければいけませんし、食道炎を繰り返すことで起こる狭窄(食道が狭くなって食べ物などの通りが悪くなる)を防ぐためにも、食道炎を治す必要があります。
まずは生活習慣の改善に取り組みます。肥満の場合には痩せる、逆流を起こしやすいと言われている脂っこい食べ物、炭酸飲料などの摂取を避ける、アルコールを控えめにする、禁煙などですが、大半の患者さんに指導しているのが、眠る3時間前までには食事を済ませておくということです。
お薬を使った治療では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃酸の分泌を抑えるお薬を使います。高齢者の中にはたくさんの種類のお薬を飲んでいる方がおられますが、そういった場合にも他の薬との飲み合わせを十分考慮してGERDのお薬が処方されていますので、安心して服薬していただきたいと思います。また、関節炎などの痛み止めの目的で「非ステロイド性消炎鎮痛薬」という種類のお薬を飲んでいる場合には、GERDの症状を感じにくくなっている場合があり注意が必要です。症状が無いからといって自分の判断でお薬を止めてしまうと、食道炎がひどくなってしまうこともあります。医師が処方した期間は、きちんとお薬を飲み続けていただくことが大切です。

GERDの症状でお困りの読者の皆さんへのアドバイスをお願いします。image

胸やけをはじめとするGERDの症状は、辛い状況であるにもかかわらず、症状が長く続くことで患者さんご自身がそれを当たり前の状態と受け止めていることがあります。適切にGERDの治療を行えば、症状がよくなることが期待できますから、ぜひ一度、消化器専門医を受診していただきたいと思います。その際には、最も辛い症状を1つだけ伝えるのでなく、遠慮しないで全ての症状を医師に伝えるようにしてください。また、前屈みになったときや甘いものを食べたときなど、どんなときに症状が起きるかを伝えていただいたり、直近で受けた内視鏡検査の結果をお持ちいただいたりすることで、さらに速やかな診断につながります。
GERDは症状をぶり返しやすい病気ですので、医師とは長い付き合いになります。症状がよくならない場合には、遠慮せず、医師にしっかりと伝えてください。医師とよい信頼関係を築いていただくことも、GERDの治療では大切なことだと思います。

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総監修 永原 章仁(ながはら あきひと)先生
順天堂大学医学部 消化器内科 教授、
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、
日本消化器病学会専門医・指導医、
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、
日本消化管学会胃腸科専門医・指導医、
日本肝臓学会専門医、
日本医師会認定産業医、
日本ヘリコバクター学会ピロリ菌感染症認定医
1987年宮崎医科大学卒業。
1994年順天堂大学医学部消化器内科学講座助手、
同年米国ミシガン大学消化器内科リサーチフェロー。
2001年順天堂大学医学部総合診療科学講座講師、
2004年より順天堂大学医学部消化器内科学講座において講師、准教授、先任准教授を務め、
2014年順天堂大学医学部附属静岡病院消化器内科教授。
2017年11月より順天堂大学医学部消化器内科教授。
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