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VOICE  Vol.4

正しい知識で「胃がん」と向き合う

日本が世界をリードする胃がん診療。その検診・診断・治療は今、どこまで進んでいるのでしょうか。
胃がんをめぐる最新事情について、海外における内視鏡診断の指導にも携わってこられ、現在最前線でご活躍中の、和歌山県立医科大学 内科学第二講座の一瀬雅夫教授に伺いました。

胃はどんな役割を果たしているのでしょうか?

「胃は食物を貯蔵し、消化吸収しやすいように分解する臓器として認識されており、その役割は重要です。しかし胃には、ある意味、もっと重要な役割があります。それは、外界から体内に入ってきた食物を、塩酸を主成分とする胃酸にさらして分解することで、バクテリア等、生体にとって好ましくない侵入物から身体を守る大きなバリアを作っていることです。これが胃の最も大事な役割だと思います。胃は消化器官(食物の摂取、消化、吸収等を行う臓器)を持つすべての生物にあるわけではありません。ヒトは脊椎を持つことで自由に移動できるようになりましたが、移動した先々で好きなものを飲んだり食べたりすることで外界から侵入する危険と常に背中合わせです。このため、胃のバリア機能は不可欠です。」

胃がんの原因はわかっているのでしょうか?image

「胃は本来、極めてがんになりにくい臓器の1つと考えられます。実際に、動物に強力な発がん物質を1年間投与した実験でも、胃がんになるのはごく少数で、人工的に胃がんを作るのは極めて難しいことがわかっています。しかし、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は胃酸を弱める物質を分泌することで胃でも生きられる細菌で、ピロリ菌の感染により胃酸分泌が低下するような病態では胃がんが形成されやすいことがわかってきました。様々な調査から、ピロリ菌感染が胃がんの主な原因であることがわかっています。」

患者数は増えているのでしょうか?image

「最近の厚生労働省の統計では、胃がんによる死亡者数は年間5万人と報告されています。若い世代を含む統計では胃がんは減少しつつありますが、日本は高齢者人口が増え続けているため、全体として胃がんは今後も増え続けると報告されています。50歳以上の日本人の半数以上がピロリ菌に感染し、感染者は5000万人とも言われており、これらの方々が高齢に達し、がん年齢になっていくことが、胃がん増加の最大の要因と考えられます。」

胃がんのタイプや病期について教えてください。image

「胃がんのタイプは大きく2つに分かれます。1つは、ピロリ菌などにより胃粘膜が萎縮(萎縮性胃炎)を起こして発症するタイプで、腫瘤(しこり)を形成し、主に血液を介して転移します。もう1つは、胃粘膜の萎縮の有無に関わらず発症する、悪性度の高いタイプです。細胞増殖が盛んで、主にリンパ節を介して転移し、がん性腹膜炎・腹膜播種(がんが胃から腹壁や横隔膜、腸管の表面などに転移した状態)の原因となります。 胃がんの病期は、がん病巣が胃の粘膜またはその下の粘膜下層にとどまっているものを早期がん、それより下の筋層に及んでいたり、消化管を突き抜けて他の臓器に転移したものを進行がんという分け方をしています。早期がんは手術がしやすく、治療効果が高いことから、早期発見することが重要です。」

胃がん検診にはどのような方法がありますか?image

「最も広く実施されているのが、バリウムX線検査で、年間約700万人がこの検査を受けています。この検査法はもともと外国で開発されたのですが、それを二重造影法という洗練された形に磨き上げたのは日本で、早期がんの60%〜80%を発見し、死亡率減少効果が確認され、有効性が認められている唯一の検査です。バリウムX線検査の技術は、我が国が外国に比べて圧倒的にすぐれていますが、その背景には日本において早期がんのデータを根気強く検討してきた長年の蓄積があります。内視鏡検査は、学会の報告によれば年間30万人が受けている検査で、今後増える傾向にあります。これも、日本で機器的にも、診断技術的にも洗練されたものに高められ、実用化された検査法です。その他、血液検査により胃がんリスクを評価する検診などがありますが、現在まだ試験段階にあると言うべきでしょう。」

早期胃がんの治療はどのようにされるのでしょうか?image

「がんが胃粘膜に留まり、リンパ節転移の可能性がほとんどない早期胃がんの場合は、内視鏡で切除することが可能となりました。過去の外科手術で切除された膨大な早期胃がんの治療経験から、がんの状況に応じて、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)、腹腔鏡下手術などが実施されています。特にEMRやESDは開腹手術を伴わないため、患者さんの負担が少ない、日本が世界に誇る手術法です。」

読者のみなさんに胃がんの予防や早期発見のためのアドバイスをお願いします。image

「今はインターネットなどで多くの情報を入手できる便利な時代になりました。しかし、中にはまだ十分に検証されてない情報や科学的根拠が乏しいものなどもあります。混乱する情報に振り回されず、御自身の健康を守るためには、国が勧めている手堅い方法を大事にしていくことが大切です。また、忙しい世の中になり、自分の健康のために割ける時間が少なくなっています。そこについては急がば回れ、やはり健康第一ということを胆に銘じて、健康に対して時間的な投資をしていただきたいと思います。早期胃がんは無症状です。症状がない時期、つまり臨床的にがんに罹っていることが簡単に診断出来るようになる前に見つけて救命するのが検診ですから、年に一回の検診を、面倒がらず『転ばぬ先の杖』だと思って受けていただきたいと思います。」

一瀬 雅夫
総監修 一瀬 雅夫先生
和歌山県立医科大学 内科学第二講座 教授、和歌山県立医科大学附属病院 中央内視鏡部長、埼玉医科大学客員教授、日本消化器内視鏡学会理事、日本消化器がん検診学会理事、日本がん検診診断学会理事、日本消化吸収学会理事、日本高齢消化器病学会理事
1977年東京大学医学部卒業。同大学病院での研修後、1979年東京逓信病院内科に勤務。1989年東京大学医学部附属病院第一内科助手。1998年東京大学医学部附属病院第一内科講師。2000年より和歌山県立医科大学第二内科教授。
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