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VOICE  Vol.5

正しい知識で「逆流性食道炎」と向き合う

近年、日本でも患者数が増加の一途をたどる逆流性食道炎。その原因や症状、治療法、治療効果、受診時のアドバイスまで、現在最前線でご活躍中の島根大学医学部第二内科 木下芳一教授に伺いました。

日本人に増えている病気なのでしょうか?

近年日本でも逆流性食道炎を訴えて医療機関を受診される患者さんが増えています。これには大きく分けて2つの理由があると考えられます。
1つは、「逆流性食道炎は治療可能な病気である」という情報がさまざまなメディアを通じて伝わったことです。もう1つは、患者数そのものが増えていることです。これにはいくつかの要因があると言われており、例えば、かつて70%台であったピロリ菌の感染率が30%台へと減少したことがあげられます。
また食生活においても、高タンパク食が増え、魚や塩分の摂取量が減少したことで胃酸分泌は増加しています。加えて動物性の脂肪摂取量が増えることで胃と食道のつなぎ目にあたる括約筋がゆるんで開きやすくなったり、内臓脂肪が蓄積されてそれが胃を圧迫し、逆流が起こりやすくなったりします。
このようなライフスタイルの欧米化が、逆流性食道炎を増加させる原因にもなっていると考えられます。

逆流性食道炎とはどのような疾患でしょうか。image

逆流性食道炎は、強い酸である塩酸とペプシンという消化酵素を含む胃液が食道内に逆流し、長時間滞在するために食道粘膜に傷ができ、炎症をおこした状態です。内視鏡で見て傷が見つかる場合は逆流性食道炎、傷が見つからなくて症状を起こす場合は非びらん性胃食道逆流症と診断されますが、それらをまとめて胃食道逆流症(GERD)と呼んでいます。
症状としては胸やけ、呑酸(のどの辺りや口の中が酸っぱい、胃の中身が逆流する感じ)が典型的ですが、胃が痛い、胃がもたれる、胃が熱いなど、上腹部全体の様々な症状を感じることがあります。
このほかにも、胸の痛みや、食べ物がつかえたような感じ、のどのつまり感、朝起きたときの慢性の咳、咽頭部の不快感、肺に胃酸が流れ込んで起きる肺線維症、中耳炎、副鼻腔炎、歯が酸で溶ける酸蝕症などの様々な症状がひきおこされることがわかっています。胸やけ、呑酸を含む何らかの不快感がある場合は、一度は逆流性食道炎を疑う必要があると思われます。

どのように治療されるのでしょうか。image

逆流性食道炎の治療では、生活習慣の改善を基本に、薬物治療を行います。治療で大切なことは、まず症状をとって生活の質(Quality Of Life:QOL)を改善することです。
最も副作用のない治療法は生活習慣の改善ですが、短所は効果が出るまでに時間がかかること。ですから、生活や食事の指導をしながら、多くの場合、まず酸の分泌を抑える薬を使用し、胃酸の強さを抑えて逆流した時に酸によっておこる傷害を軽減します。治療薬としては酸の分泌を抑える薬、酸分泌抑制薬があります。従来H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)が使用されていましたが、この薬は胸やけが起こりやすい時間帯である昼間に効きにくい点と、長期連用していると効果が弱まってくるという課題がありました。
現在は、昼間の時間帯にも効果を発揮し、かつ長期服用しても効果が安定しているプロトンポンプ阻害薬(PPI)が学会で最初に投薬される薬として推奨され、使用されています。

生活習慣の改善でどのくらいよくなるのでしょうか。image

生活習慣・食生活改善のポイント日本全国の1000以上の医療機関で実施した試験において、PPI服薬患者さんに、生活習慣の改善指導をした場合としなかった場合で比べたところ、PPIの服薬だけでも症状やQOLは改善したのですが、生活習慣や食生活の改善を指導した患者さんでは最大1.5倍の改善効果がみられました。
非常に厳しい生活習慣の改善は、なかなか実行しにくいかもしれませんが、この研究の場合、指導内容はごくごく一般的なもので、厳格なものではありませんでした(表)。
逆流性食道炎の治療では、実現可能な生活改善と薬物治療で最終的には病気になる前の健康的な生活に戻っていただくことが大切です。この結果は、逆流性食道炎の治療では薬物治療とともに、生活改善が極めて有効であることを示すものです。

薬物治療によってどれくらい症状がよくなるのでしょうか。image

食道に傷がある場合、標準用量のPPIを8週間きちんとのんでいただければ、9割の方が、日常生活にほとんど問題とならない程度まで症状は消失します。これで症状が残った場合でも、薬の量を変えたり、服薬のタイミングを食後から食前に変えたりして工夫すると、さらに8割の方で症状は消え、PPIによる逆流性食道炎の症状改善効果は大変高いといえます。治療目標としては、症状の発症を週1回未満に抑えることが重要で、そうすることによりQOLを健康な人と同レベルまで改善することが可能になります。

読者のみなさんに逆流性食道炎の予防、受診、検査、治療などについての
アドバイスをお願いします。
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胸やけや呑酸は逆流性食道炎の典型的な症状ではあるのですが、食道がん、胃がん、胃潰瘍や、食道のアレルギーである好酸球性食道炎などでも同じような症状を伴う場合があります。
また、日本人では欧米人に比べ、ピロリ菌の感染率が3割と比較的多く、食道がんも増えてきているのが実情ですので、一度は内視鏡による検査を受けたほうがよいと考えます。特に、過去数年間に渡って健康診断を受けたことがない方、50歳代(がん年齢)の方、毎日お酒を飲む方、喫煙される方は症状を抑えるための薬物治療を開始すると同時に内視鏡検査を受けられることをお勧めします。
内視鏡検査は、怖くて嫌だと思われる患者さんもいらっしゃいますが、病院によっては患者さんへの負担が少ない方法を選べる場合もありますので、まずはかかりつけの医師にご相談ください。
逆流性食道炎は再発しやすい病気ではあるのですが、再発時の重症度は初回に見つかったときの重症度を超えることはあまりありません。逆流性食道炎かなと思ったらまず受診して治療を開始していただくと同時に、食習慣、生活習慣を見直していただき、症状がなくなるまで服薬を続けていただければいいと思います。そして病気になる前の健康な生活を取り戻しましょう。

木下 芳一
総監修 木下 芳一先生
島根大学医学部第二内科教授、日本内科学会指導医、日本消化器病学会指導医、日本消化器内視鏡学会指導医、日本超音波医学会指導医、胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン作成委員長
1980年神戸大学医学部卒業。1987年ミネソタ州メイヨークリニックへ留学(リサーチフェロー)、1994年神戸大学医学部老年科講師を経て、1997年より島根大学医学部第二内科教授。
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