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VOICE  Vol.6

正しい知識で「消化管障害」と向き合う

心臓の病気などで循環器科の外来を受診される患者さんにも、消化器疾患のお薬(一般的にいうところの「胃薬」)が処方されるケースが多くなってきました。その意味や継続してお薬を服用することの重要性を、循環器領域がご専門の帝京大学医学部循環器内科学教授 一色高明先生に伺いました。

どんな場合に消化器疾患のお薬(胃薬)を処方されるのでしょうか?

循環器科を継続して受診される患者さんの多くは、過去に心臓の病気を患った方々です。従って、通院期間が長期にわたることも多く、その間に消化器症状を訴える方は少なくありません。特にご高齢の患者さんでは、逆流性食道炎の症状を訴える方が増えており、必要に応じて内視鏡検査などを行うケースもあります。 一方、消化器の病気がない場合でも、一度潰瘍になったことがある患者さんなどリスクが高い方に関しては、潰瘍の再発や再発した潰瘍からの出血を抑制するために消化器疾患の薬を併用することが多くなってきました。例えば心筋梗塞や脳梗塞などを経験した動脈硬化性疾患の患者さんは、病気の再発を抑制するため、ほぼ全例にアスピリンをはじめとする血液をさらさらにする薬(抗血小板薬)が投与されています。抗血小板薬の服用は患者さんによって、胃がむかむかする症状がでたり、消化管出血(血を吐くまで行かなくても、黒色便や血液検査で貧血と言われて気が付くこともあります)を引き起こすことがあります。そのことによる抗血小板薬の服用中止を防ぐため、消化器疾患の発生リスクが高い患者さんにはほとんどの場合、消化器疾患の薬を併用します。

心臓の病気なのに胃薬も飲み続けなければいけませんか?image

循環器専門医の立場からは、消化管出血のために抗血小板薬を中止しなくてはいけないという状況はできるだけ回避したいのです。抗血小板薬の服用の中止は心筋梗塞や脳梗塞などの再発につながり、それは重大な結果につながりかねません。なかでも冠動脈へのステント留置(拡張可能な金属製の網目状の円筒を血管に入れ、血管を開存させておくこと)後は、抗血小板薬を2種類服用して血液をさらさらの状態にしておくことが必須であり、万が一でも消化管出血によって抗血小板薬の服用を中断することは心筋梗塞や脳梗塞再発の大きなリスクとなります。ステント留置から当面の間は、たとえ出血の可能性がある外科手術をする場合でも抗血小板薬を1剤は継続してほしいとお願いしています。こういったケースに限らず、高齢者や、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの動脈硬化性の疾患がある方も、消化管出血のリスクが高いと考えられますので、医師から消化器疾患の薬を処方された場合は、自分の判断で服用を中断しないでいただきたいと思います。
かつては私どもの循環器科の外来において、一定の頻度で吐血の患者さんがおられたのですが、消化器疾患の薬を併用するようになって以降、外来で吐血の患者さんを見ることはほとんどなくなりました。消化器疾患の薬を併用することで、治療する側も安心して循環器の治療に集中できるようになってきたと思います。

どのような消化器疾患のお薬が使われるのですか?image

心筋梗塞や脳梗塞の再発抑制のために低用量アスピリンを投与している場合や、急性冠症候群の初期治療などで抗血小板薬と抗凝固薬が併用される場合、あるいはステントを留置した方や痛み止めの薬(NSAID)を服用する患者さんなどに対しては、胃酸の分泌を強力に抑えるプロトンポンプ阻害剤(PPI)を強く推奨する勧告がアメリカの3学会共同で出されています。また、日本の循環器系の学会のガイドラインでも同様の推奨がされています。当施設においても、循環器疾患の患者さんを対象に、PPI投与前後で出血が起こる頻度や消化管粘膜の所見を検討したところ、PPIの投与により出血性の合併症が減少し、内視鏡所見も改善することが明らかになりました。これらを総合的に判断し、私どもは抗血小板療法を継続する患者さんに対しては、積極的にPPIを処方する方針としています。現在、当科で処方する消化器治療薬の9割以上はPPIとなっています。その他の薬剤としては、H2ブロッカーなどが処方されることもあります。

以前に胃・十二指腸潰瘍を経験された患者さんの場合、
潰瘍再発を抑制するための対策はありますか?
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消化管には、胃酸分泌を抑えたり、胃粘膜を保護する作用を持つプロスタグランジンという物質が存在します。アスピリンをはじめとする抗血小板薬や痛み止めの薬(NSAID)は、このプロスタグランジンの働きを抑えることにより抗血小板作用や消炎鎮痛作用を発揮しますので、長期にわたって服用すると、胃粘膜の保護作用が失われ、潰瘍などを引き起こす可能性が大きくなります。このため、これまでに胃・十二指腸潰瘍になったことのある方がアスピリンやNSAIDを服用する場合は、潰瘍の再発抑制のためにPPIを併用することが推奨されており、保険適応となっています。

お薬の数が増えて心配、という方にアドバイスをお願いします。image

今は消化器症状がなくても、消化器疾患の薬を併用して服用することのメリットを理解いただきたいと思います。特に血管にステントを留置した患者さんに対しては、抗血小板薬は絶対に自分の判断で止めないように、他の人に止めるよう勧められても止めないでくださいと説明しています。継続して服用することがきわめて重要な薬剤を、胃のむかつきなどの症状や出血などの消化管傷害のために中断することのないよう、消化器疾患の薬(胃薬)は併用する必要があるのです。抗血小板薬や痛み止めの薬(NSAID)による消化管出血は、年齢を重ねるにつれ増加すると報告されていますが、これらの薬剤の治療対象となる方々もまた高齢者なのです。このため、循環器疾患の治療に伴って起こってくる消化管傷害への対策は、今後、ますます重要になっていくと考えられます。
また、PPIは1日1回の服用です。抗血小板薬もほとんどの薬は1日1回になっていますから、一緒に服用するようにすれば、飲み忘れることも少ないと思います。
消化器疾患のケアの重要性については、患者さんに接する機会の多い、かかりつけ医の先生方からも、折に触れて説明していただき、「一緒に出された消化器疾患のお薬(胃薬)もきちんと続けて飲んでいますか」と声を掛けていただければと思います。

一色 高明
総監修 一色 高明先生
帝京大学医学部内科学講座教授、日本心血管インターベンション治療学会理事、日本循環器学会認定循環器専門医、日本内科学会認定内科専門医、日本冠疾患学会理事、日本脈管学会理事、日本心臓核医学会理事
1975年東北大学医学部卒業。1986年東京大学より医学博士号を取得。1989年三井記念病院循環器センター内科科長、1992年帝京大学医学部内科学講座助教授。1999年より帝京大学医学部内科学講座教授。
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