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VOICE  Vol.7

正しい知識で「ヘリコバクター・ピロリ感染症」と向き合う

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染経路や診断、除菌治療とその目的について、長年ピロリ菌と胃がんの研究に携わり、多くの報告を世界に向けて発信してこられた国立国際医療研究センター国府台病院院長の上村直実先生に、「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」という最新トピックスを交えてお話しいただきました。

へリコバクター・ピロリとはどのような菌なのでしょうか?

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は胃の粘膜に住みつき、そこに炎症を起こす細菌です。胃の中は胃酸によって非常に強い酸性に保たれ普通の細菌は生きていけませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を使って胃粘膜に含まれる尿素を分解し、自らアンモニアを作り出すことで自分の周りを中和して生存することができます。

ピロリ菌にはどのように感染するのでしょうか?image

ピロリ菌は主に口からの侵入で感染するとされており、小学校入学以降では感染は起こらないことがわかっています。下水道の整備などにより、現代の日本では、水や食物といった自然界にはピロリ菌はほとんど存在せず、感染者の胃の中にだけ存在することから現代における感染は、近親者など乳幼児を取り囲む感染者の胃の中のピロリ菌がげっぷや嘔吐などで外に出て来ることによって起こると考えられています。そのため1970年代の日本では20代の50%以上がピロリ菌に感染していましたが、現在では20代の感染率は5%にまで低下しています。しかし、いまだに50代以上の感染率は50%を超えています。

感染するとどのようなことが起こるのでしょうか?image

目に見えない組織学的炎症が起こります。そしてこの炎症が持続することで胃の粘膜が萎縮します。これはいわば胃粘膜の老化で、胃や十二指腸の潰瘍が起こりやすくなるほか、胃がんが発症しやすくなることがわかっています。私たちは毎日、食事などに含まれる微量の発がん物質を摂取していますが、それにより胃の細胞のDNAが傷つけられ、遺伝子の異常がおこります。通常の状態であれば少々の異常は本来備わった修復機能で修正されるのですが、ピロリ菌によって炎症状態にある胃の粘膜では、この遺伝子の異常が積み重なりやすく、胃がんに発展しやすくなると考えられています。

ピロリ菌の感染はどうやってわかるのですか?image

ピロリ菌に感染することで、胃には特徴的な胃炎の症状が現れます。ピロリ感染胃炎にみられる胃粘膜の特徴は、老化(萎縮)、びまん性の発赤(広い範囲に赤くなる)、粘液の付着、浮腫(腫れ;胃体部大彎のひだの腫大、蛇行)、キサントーマ(ピロリ菌で特徴的にみられる胃粘膜の盛り上がり)などで、内視鏡によって確認することができます。また、ピロリ菌の感染自体は、内視鏡を使う方法と使わない方法で診断できます。内視鏡を使う方法としては、内視鏡の際に胃粘膜をとってきて(1)顕微鏡を使って見る鏡検法、(2)ウレアーゼの活性をみる迅速ウレアーゼ試験、(3)ピロリ菌を培養する培養法が、内視鏡を使わない方法としては(4)血液や尿を採取してピロリ菌の抗体を調べる抗体測定、(5)便中のピロリ菌の抗原を調べる抗原測定、(6)検査用のお薬を服用し、吐く息でウレアーゼの活性を調べる尿素呼気試験があります。いずれの検査方法でもピロリ菌に感染しているにもかかわらず結果が陰性(感染していない)と出てしまう可能性がありますので、2つ以上の検査を行うことがガイドラインでも推奨されています。

ピロリ菌に感染している場合、どうやって治療するのですか?image

胃の中に生育するピロリ菌を薬によって排除する「除菌治療」を行います。抗菌薬2種類と、これらの抗菌薬が力を発揮できるよう、胃酸分泌を抑え環境を整えるお薬(プロトンポンプ阻害薬(PPI))の3剤を1週間服用します。これを一次除菌と言います。日本における一次除菌の成功率は80%程度で、一次除菌に失敗した場合には、2種類のうち、1種類は別の抗菌薬に変更して二次除菌を行います。二次除菌の成功率は90%以上とされています。また、除菌治療後4週間以上経過した後には、除菌が成功したかどうかの除菌判定を行います。除菌治療は判定まできちんと行って初めて終了しますので、忘れずに受診しましょう。

徐菌治療で何か気をつけることはありますか?image

お薬による治療ですので、メリットばかりではなく気をつけないといけないこともあります。たとえば除菌治療で起こる可能性のある副作用としてはペニシリンの仲間の抗菌薬に対するアレルギーが挙げられます。もし過去にペニシリンでアレルギーが出たことのある患者さんはその旨を先生に相談してください。また、軟便、下痢、味覚異常といった比較的軽い副作用があらわれることがあります。ただ、これらの症状は薬の服用を止めると収まりますので、心配し過ぎないことが大切です。また副作用ではありませんが、除菌に成功すると胃の炎症がなくなることで胃酸分泌機能が回復し、胸やけなどの胃食道逆流症(GERD)の症状が出ることもあります。内視鏡の検査の時に食道裂孔ヘルニア(食道と胃を外から区切っている横隔膜から胃の一部が飛び出してしまう疾患)があると指摘された方は特に起こりやすいので注意が必要でしょう。このような治療による副作用、治療後にあらわれる症状などについては、治療を始める前に医師からきちんと説明を受け、理解したうえで治療を受けることをお勧めします。

ピロリ菌の感染診断や除菌治療は保険診療として行われるのですか?image

これまでは胃・十二指腸潰瘍、胃のMALTリンパ腫(炎症を抑えるために集まったリンパ球ががん化して起こる疾患)、特発性血小板減少性紫斑症(血小板が減少して出血しやすくなる疾患)と診断された場合、および早期胃がんの内視鏡による治療後に対して、ピロリ菌の感染診断と除菌治療が保険診療として行われていましたが、新たに「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」が加わりました。この場合、ヘリコバクター・ピロリが陽性であること及び内視鏡検査によりヘリコバクター・ピロリ感染胃炎であることを確認することが保険診療として治療する場合の条件となります。

徐菌治療を行うことのメリットと読者のみなさんへ治療後のアドバイスをお願いします。image

胃の炎症状態が改善されることによって、胃がんへの進展が抑制される、胃や十二指腸潰瘍の再発が抑えられる、胃MALTリンパ腫が消失する、特発性血小板減少性紫斑症によるステロイドの使用や脾臓の摘出が避けられるといったことが報告されています。しかし気をつけなければいけないのは、ピロリ菌を除菌したから、喫煙や飲酒、塩分の取り過ぎなどの生活習慣に気をつけなくても胃がんにならなくなる訳ではないということです。胃がんの始まりは胃の細胞の遺伝子異常で、ピロリ菌はそれががんに成長するのを後押ししているだけであることを忘れてはいけません。また、除菌治療後の胃粘膜は炎症がなくなって小さながんでも見つけやすい状態になっていますから、当院では1年後に内視鏡による検査を受けていただくようにしています。胃がんは早期発見すれば治るがんになってきています。特にがん年齢とされる50歳以上の方では、除菌治療で安心するのではなく定期的な内視鏡検査を実施することが、胃がんの早期発見のためにも非常に重要なことだと考えています。

上村 直実
総監修 上村 直実先生
国立国際医療研究センター国府台病院院長、日本消化器病学会専門医・指導医・理事、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・理事、日本ヘリコバクター学会専門医・副理事長、日本内科学会認定内科医
1979年広島大学医学部卒業。1987年米国アラバマ大学消化器科留学を経て、1989年呉共済病院消化器科医長。2002年国立国際医療センター内視鏡部長、2007年同臨床研究・治験センター長、2010年から同理事および国府台病院長。
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