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VOICE  Vol.8

正しい知識で「消化管障害」と向き合う

身体の痛みやリウマチなどで整形外科の外来を受診される患者さんにも、消化器疾患のお薬(胃薬)が処方されるケースが多くなってきました。その意味や継続してお薬を服用することの重要性を、整形外科・リウマチ領域がご専門の近畿大学医学部奈良病院 整形外科・リウマチ科教授の宗圓聰先生に伺いました。

整形外科ではどんな場合に消化器疾患のお薬(胃薬)を処方されますか?

大きく分けて2通りあります。1つは、整形外科の疾患に合併してくる消化管疾患の治療のためで、そのうち、骨粗鬆症に伴う胃食道逆流症(GERD)が多いです。骨粗鬆症は、骨のカルシウムが減って骨が脆くなる閉経後の女性に発症しやすい疾患で、背骨(椎体)の骨折や大腿骨折などを引き起こしますが、消化管の疾患と関係するのは背骨の骨折です。背骨の骨折が多発すると背中が丸くなる、座高が低くなるなどの体型変化が起こり、胸部や腹部のスペースが狭くなっておなかが圧迫されます。さらに、胸部と腹部を隔てている横隔膜を超えて、胃が胸部スペースにはみ出してしまう食道裂孔ヘルニアの合併も増え、胃酸が食道に逆流しやすくなって、胸やけ、呑酸などの症状を引き起こしたり、逆流性食道炎になったりします。
もう1つは、治療薬の合併症として起こってくる消化管傷害の治療・再発予防のためです。整形外科を受診されるほとんどの患者さんは、痛みを訴えて来られます。こういった患者さんにはNSAIDと呼ばれる痛み止めの薬を処方するのが一般的で、現在も多く処方されています。NSAIDは、胃粘膜を保護する物質の生成を減らす作用があり、これが胃潰瘍など消化管傷害の原因になると考えられています。外用薬だとあまり問題になりませんが、内服薬や坐剤は注意が必要です。

整形外科の疾患に合併してくる消化管疾患の場合は、
どのように診断・治療されるのでしょうか?
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骨粗鬆症などで背中が曲がっている患者さんには、まずGERD症状の有無・頻度などを質問する簡単な問診票を使って客観的にGERD症状の有無をチェックし、GERDと診断された場合は、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)を処方します。診察時にGERDの問診票を使っていなかった頃は、骨粗鬆症で背中が丸くなっている患者さんでも積極的に消化器症状を訴える割合は低く、症状を有する患者さんは1割もないと考えていました。しかし、問診票を利用して診断するようになって、実は4割近い患者さんがGERDを合併していることが明らかになってきました。加齢のせいだと思い込んで我慢していた胸やけ、呑酸、胃の不快感などの消化器症状がPPIの服用で改善し、病気の症状だったのだとはじめて気づく患者さんもいるようです。

治療薬の合併症として起こってくる消化管傷害の治療・再発予防は、
どのように診断・治療されるのでしょうか?
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NSAIDを2週間以上継続して服用される患者さんの場合、必ず過去に胃・十二指腸潰瘍になったことがあるかを確認し、既往のある方には、必ずPPIを併用します。NSAIDを2週間以上継続した場合、内視鏡で潰瘍が見つかる頻度が20%前後、症状を伴う潰瘍が2%、さらに潰瘍が深くなって胃壁に孔があく出血穿孔までいってしまうケースも1%以上あることが分かっているためです。複数あるいは高用量のNSAIDを服用していたり、ステロイド、抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)、ビスフォスフォネート(骨粗鬆症治療薬)を服用されている場合なども、注意が必要です。また、整形外科を受診する患者さんは高齢の方が多く、整形外科の疾患以外にも消化管傷害をもたらすお薬を服用している場合が多いことも考慮すべき点です。

治療薬の合併症としての消化器症状は具体的にどんなものがありますか?image

NSAIDは痛みを抑える薬ですから、NSAID服用中の患者さんでは、胃の痛みなどの不快な症状は抑えられてしまい、自覚症状がないという場合も多くあります。そのため、リウマチでNSAIDを長期投与する以外に治療法がなかった頃は、全く消化器症状を訴えていなかった患者さんが突然、吐血や下血で運ばれてくるというケースもみられました。しかし一方で、NSAIDを一定期間服用した患者さんを対象にPPIを併用するという近畿大学で実施した臨床試験では、PPI服用前と比べて服用後には症状が楽になったと言う患者さんが見られたという報告もあります。一般的にNSAID服用中は胃の痛みをはじめとする消化器症状を訴えにくいと言われていますが、問診票を活用するなどして定期的に消化器症状の有無を聞いていくと、予想より多くの患者さんが胃の不快感などの症状を感じていることがわかりました。治療中に胃の痛みや不快感など普段と違う症状や、気になることがあった場合は我慢せずに一度かかりつけの医師に相談することをお勧めします。

お薬の数が増えて心配、という方にアドバイスをお願いします。image

痛み止めのお薬は整形外科領域の疾患治療において患者さんの生活の質(QOL)を維持するためにとても大切な役目を担っています。一方で、整形外科の疾患の治療中に、その疾患や治療薬のために消化管傷害が起こってくると、本来の目的の疾患に対する治療そのものを止めざるを得なくなってきます。例えばNSAIDの中止により、治療が縮小されてしまうと痛みなどの症状は当然強くなり、運動器に疾患のある患者さんでは日常生活において動作が制約されるなど、QOLにも大きな影響が出てきます。消化器疾患のお薬が症状や病気が出ないように処方されているということを理解いただき、「自分は胃は悪くないから」と自己判断で服用をやめないでいただきたいと思います。人口の高齢化に伴い、整形外科の疾患も増えてくるなか、治療に伴って起こってくる消化管傷害に対する対策はますます重要になってくると考えています。

総監督 宗圓 聰先生
近畿大学医学部奈良病院 整形外科・リウマチ科教授、日本リウマチ学会理事、日本臨床リウマチ学会副理事長、日本骨代謝学会理事、日本骨粗鬆症学会理事、日本整形外科学会代議員
1978年京都大学医学部卒業。
2004年より近畿大学医学部奈良病院 整形外科・リウマチ科教授。
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