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VOICE  Vol.9

正しい知識で「慢性咳嗽」と向き合う

長引く咳などで内科や呼吸器内科の外来を受診される患者さんにも、消化器疾患のお薬(胃薬)が処方されるケースが多くなってきました。その意味や消化器疾患も合わせて治療することの重要性を、呼吸器内科学がご専門の名古屋市立大学大学院医学研究科 腫瘍・免疫内科学教授の新実彰男先生に伺いました。

呼吸器内科ではどんな場合に消化器疾患のお薬(胃薬)を処方されますか?

患者さんが医療機関を受診する理由として、一番多い症状は咳だと言われています。なかでも、胸部X線検査での異常や喘鳴(呼吸の時に「ゼーゼー、ヒューヒュー」いうこと)などが見られず、8週以上続く咳を「慢性咳嗽」といいます。一見原因がわからない場合には診断がつけにくいため、いろんな病院にかかってもなかなか症状が改善せず、お困りの患者さんがいらっしゃることが問題になっています。この慢性咳嗽の原因の約半数は咳喘息で、その次に多くみられるのが消化器の病気であるGERD(胃食道逆流症)です。GERDのみが原因のケースはそれほど多くないのですが、慢性咳嗽患者さん全体の約半数は咳喘息とGERDが併発していると考えられており、その数は年々増加傾向にあります。

慢性咳嗽と消化器の病気であるGERD はどのように関係しているのでしょうか?image

GERDにより咳が出るメカニズムとしては、2通り考えられています。1つは、食道と胃を隔てている筋肉が一時的にゆるみ、胃酸が逆流して、食道の下部にある神経を刺激することで咳が出るケースです。この一時的な筋肉のゆるみが1日に何度も起きて咳が続くのですが、この場合、昼間にのみ咳がみられるケースが多く、GERDの代表的な症状(定型症状)である胸やけや呑酸などの食道症状がほとんどない場合があります。もう1つは、食道と胃を隔てる筋肉が加齢などで定常的にゆるんでしまっているため、夜間など横になった際に、食道上部の喉のあたりまで胃酸が逆流し、その胃酸が気管から肺に入って咳が出るケースです。この場合はおのずと夜間の咳が多く、逆流する胃酸の量も多いために胸やけや呑酸などの食道症状を伴いやすく、高齢者に多くみられます。

咳の原因となるGERDをどのように診断されるのでしょうか?image

まずは病歴の確認が基本です。咳喘息の場合は、毎年同じ季節に咳が出る、または悪化するなど季節性があったり、夜間に眠れないくらいの咳が続くなどの特徴があります。そういった病歴があればまずは咳喘息による咳であることが疑われます。一方でGERD を原因とする咳の場合は、胸やけや呑酸、ゲップがよく出るなどの消化器症状があることや、食後や起床直後、上半身を前に曲げた姿勢をとったり、寝ているときに寝がえりをうったりすると咳が出る、あるいは会話中に悪化しやすいなどの特徴があります。
慢性咳嗽の背景にGERDがあっても必ずしも内視鏡検査で食道粘膜の傷害が認められない患者さんもいらっしゃること、高齢者などでは消化器症状が加齢のせいだと思い込んでいることなどもあるため、プライマリケアにおけるGERD の診断には胸やけや呑酸などのGERDの定型症状とそれらの症状による不眠など生活へのインパクトを確認する問診票を活用することも有用だと思います。

GERDが関連する咳の治療はどのようにされるのでしょうか?image

問診票でGERDの可能性があると診断された場合、基本的にはまずPPIによる治療を開始します。PPIの服用により消化器症状だけでなく、咳の改善がみられた場合、診断が確定します。GERDの患者さんが増加しているという背景もあり、咳の原因疾患に対する治療をしても効果が不十分な場合には、常にGERDの合併を意識して診療に臨むようにしています。またGERDが関連した慢性咳嗽患者さんには、PPIを中心とした薬物治療とともに、肥満を解消する、脂肪分や刺激物の多い食品を避ける、禁煙する、大量の飲酒をしないなど、GERD患者さんに対する指導と同様の生活指導をします。このように実現可能な生活改善と薬物治療によってGERD症状が改善し、それにより咳の症状も改善することで、元の健康的な生活に戻っていただくことが可能です。

GERDを治療すると咳の症状も改善するのでしょうか。image

GERDは咳の原因になりますが、逆に、咳がGERDを悪化させることもあります。咳が続くと横隔膜にかかる圧力が高くなって胃酸の逆流が増え、咳を誘発するというように、咳とGERDは相互に影響しあい、終わりのないサイクルができてしまうのです。このためGERDを治療することで咳が改善し、咳が改善されることでGERDが改善するといったケースも多く経験しています。私自身、1996年に初めてGERDを合併する慢性咳嗽患者さんを経験するまでは、GERDによる咳などはないと思っていました。その患者さんは10年位咳が続いており、喘息などの治療をしても改善せず、精密検査を希望して入院されたケースでした。海外ではGERDに伴う咳の報告があったので消化器内科で検査をしてもらうと内視鏡で異常はなかったのですが、食道のpHモニタリングで胃酸逆流があることがわかり、PPIを投与したらすっかり咳がよくなったという経験でした。

長引く咳で困っている患者さんへのアドバイスをお願いします。image

安易に咳止めだけを飲み続けるといった対応では、慢性咳嗽を治すことはできません。これは咳嗽に関するガイドラインの基本的な考え方でもあります。
当院は咳の専門外来を設けており、私自身、その診療にあたっていますので長引く咳で受診される患者さんを多く診ています。そのなかには何十年もの間、いろんなところにかかったけれども原因が分からず、専門外来にたどりついたという方もいらっしゃいます。咳が数カ月に渡って続いているという場合には、ぜひ呼吸器やアレルギーの専門医を受診していただきたいと思います。

総監修 新実 彰男先生
名古屋市立大学大学院医学研究科 腫瘍・免疫内科学 教授、日本内科学会(認定医、評議員)、日本呼吸器学会(専門医・指導医、代議員)、日本アレルギー学会(認定医・専門医・指導医、代議員、理事)、日本呼吸器内視鏡学会(専門医・指導医、評議員)、日本結核病学会(結核・抗酸菌症指導医、評議員、理事)
1985年3月 京都大学医学部医学科卒業
1989年8月 京都大学胸部疾患研究所第一内科医員
2002年6月- 2003年12月 Post-doctoral research fellow, National Heart & Lung
Institute, Imperial College London, UK(Prof. K Fan Chung)
2008年4月 京都大学大学院医学研究科内科学講座・呼吸器内科学 准教授
2012年3月 名古屋市立大学大学院医学研究科 腫瘍・免疫内科学 教授
名古屋市立大学病院 呼吸器内科 部長
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