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VOICE  Vol.10

正しい知識で「咽喉頭逆流症」と向き合う

胃酸の逆流は胸やけなどの消化器症状だけでなく、咳やのどの症状を引き起こすことがあります。
胃酸の逆流を原因とする咽喉頭逆流症について、症状から診断、治療法までを横浜市立大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科主任教授の折舘伸彦先生に伺いました。

耳鼻咽喉科ではどんな場合に消化器疾患のお薬(胃薬)を処方されますか?

最近増えてきているのが胃酸の逆流が原因で、のどに症状が出ているケースです。アメリカでは、耳鼻咽喉科を受診する胃食道逆流症(GERD)の患者さんの数は1990年初めには年間約9万人でしたが、8年後には年間42万人超と大幅に増加しています。日本においてもライフスタイルの欧米化に伴いその数は増加していると言われています。GERDがのどの症状を引き起こすことが日本で初めて報告された1995年以降、私自身の診療でもGERD患者さんの数は増加し、胃薬の処方が増えているという印象です。

GERDはのどの症状とどのように関係しているのでしょうか?image

胃酸を含む胃の内容物が食道やのどに逆流することが原因で、のどの症状が引き起こされている病態を、咽喉頭逆流症と呼びます。症状が出るしくみとして、次の2つが考えられています。1つは胃酸がのどにまで逆流して、のどの粘膜を傷つけることで炎症や症状が出る場合。もう1つは、胃酸の逆流がのどより下の食道内にとどまり、のどには炎症がないにも関わらず、食道にある神経が刺激されて症状が出る場合です。それぞれの患者さんで、この2つのしくみが様々な割合で関与していると考えられています。

どのような症状が出るのでしょうか?image

患者さんが訴える症状には様々なものがありますが、それらは大きく分けて次の4つに分類することができます。
1)咳ばらいや煩わしい咳といった咳の症状
2)声がかれる、声が出しにくいという音声の症状
3)のどのつかえ感、飲み込みにくい、のどに何かが張り付いた感じ、塊がある感じといった、のどの異常感
4)胸やけやのどのあたりや口の中が酸っぱい、胃の中身が逆流する感じ(呑酸)といったGERDの代表的な症状(定型症状)

患者さんの多くは、これらの症状を複数あわせ持っています。また、症状は夜間だけでなく、日中にも感じることが多くあります。
我々の調査では、患者さんが訴える症状で最も多いのはのどの異常感で、約8割の方に認められました。また、GERDの定型症状を訴える患者さんは6割程度で、食道症状を感じない患者さんもいらっしゃるということがわかっています。

気になるのどの症状があるのですが咽喉頭逆流症でしょうか?image

咽喉頭逆流症の自覚症状は、1つ1つをとってみればごく一般的な症状で、例えば咳は風邪でも出ますし、声がれも胃酸の逆流以外の理由で起こることがあります。自覚症状の1つに当てはまったからといってすぐに「咽喉頭逆流症だ」と結論をくだす必要はありません。いくつかの症状に当てはまる場合に「咽喉頭逆流症の可能性があるかもしれない」と考えて受診につなげて頂ければよいと思います。

咽喉頭逆流症をどのように診断されているのでしょうか?。image

診断では問診を基本としています。咽喉頭逆流症は自覚症状を複数認めることを特徴としていますから、まずは自覚症状を複数持っていることを問診で確認します。その上でGERDと診断できればプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使った治療を開始し、症状の改善が得られれば診断を確定します。症状改善の効果判定はPPIの投与から4週後または8週後を目安としていますが、その期間で症状の改善がみられない場合には、胃酸の逆流以外の病態が関与している可能性を考慮して食道の内視鏡検査やのどの内視鏡検査、24時間のpHモニタリング検査を行うこともあります。また、咽喉頭逆流症に類似した自覚症状は悪性腫瘍の非常に早期の段階やアレルギー疾患などでも認められることがあるため、これらの疾患を除外するための問診や内視鏡検査を行うことも重要です。

治療方法を教えて下さい。image

問診でGERDの可能性があると診断された場合、基本的には、酸分泌抑制薬であるPPIによる治療を開始し、あわせて生活指導も行います。咽喉頭逆流症においてもGERDと同様、脂肪の多い食事や刺激物を控えるといった食生活の改善、肥満の解消、禁煙などが有効です。このほか、私が患者さんに特にお願いしていることが、寝る前2時間は食べないようにすること、可能であれば少し上半身を上げて寝るようにすることです。この2つを守って頂くことで、かなり多くの患者さんで症状改善の実感が得られているように感じています。

咽喉頭逆流症の治療を受けるにあたっての 注意点などはありますか?image

咽喉頭逆流症では治療をしても症状が完全に消失するとは限りません。まずはこのことを念頭に置いて頂く必要があると思います。薬物治療だけで全てが解消するわけではないことを理解した上で、治療のゴールをどこに設定するかを、医師とよく相談しておくことが大切です。
また、生活指導ではGERDに対する一般的な指導を行っていますが、これはすなわち規則正しい生活を送るということです。のどの症状の改善以外にも、生活全般にメリットをもたらすものとして取り組んで頂ければと思います。

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総監修 折舘 伸彦(おりだて のぶひこ)先生
横浜市立大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 主任教授
日本耳鼻咽喉科学会 認定専門医
日本頭頸部外科学会 頭頸部がん専門医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
1988年 北海道大学医学部医学科卒業。
1999年より北海道大学医学部耳鼻咽喉科、2度の米国テキサス大学MDアンダーソン癌センター留学を経験し、2007年 北海道大学大学院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 准教授。
2013年 より横浜市立大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 主任教授。
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