NextLifeオンライン

VOICE  Vol.11

正しい知識で「胃がん」と向き合う

近年胃がんに対する内視鏡治療は技術、機器ともに目覚ましい進化を遂げています。
今回はこの点も踏まえて、胃がんの診断、治療について内視鏡治療の開発に携わり、その進化に大きく貢献されている
慶應義塾大学医学部腫瘍センター 低侵襲療法研究開発部門教授の矢作直久先生に伺いました。

日本の胃がん患者数はどのくらいでしょうか。

胃がんは、早期発見・早期治療がかなり進んできたためその死亡率は減少していますが、依然として約18万6千人の患者さんがいらっしゃることが厚生労働省の平成23年の調査でわかっています。胃がんの最も大きな原因はヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染と考えられており、ピロリ菌の感染によって胃が荒れた状態で高濃度の塩分を摂ると、胃がんのリスクはさらに高まると言われています。

胃がんの診断はどのように行われるのですか。image

診断は、主に胃の内視鏡検査あるいはバリウム検査によって行います。最近では、血液中のペプシノゲン値とピロリ菌感染の有無から胃がんになりやすい人を絞り込むABC検診(胃がんリスク検診)が行われており、リスクの高い人に対して効率よく内視鏡検査を行うことで胃がんの早期発見につながっています。

どのような治療法があるのでしょうか。image

治療法はがんの大きさや深さによって異なり、内視鏡治療、外科手術、抗がん剤を使った化学療法などがあります。早期に見つかった場合には内視鏡治療が選択されます。近年主流になってきているのは内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)と呼ばれるもので、内視鏡の先端から出した専用のナイフを使って、がんだけを切り取ります。技術や機器の進歩により、切り取れるがんの大きさや治療の確実性が向上したため、実施件数は増加しています。内視鏡治療は術後の生活のことも考えると、患者さんにとって最も身体的負担の少ない治療法ではないかと思います。

どのような場合に内視鏡治療が受けられるのでしょうか。image

内視鏡治療が可能なのは、がんを残さず取りきれ、転移がないという条件を満たす場合です。具体的には胃の表面に留まる浅いがんで、“顔つき”がよいものです。がんの“顔つき”とは専門用語では「分化度」と言い、スキルス胃がんのようにあっという間に広がってしまう顔つきの悪いがんは未分化型と分類されます。未分化型の場合には、胃の表面に留まる2cm以下の小さながんが内視鏡治療の対象となります。一方、顔つきの良い分化型のがんの場合には、表面に留まるものであれば大きさを問わず、例えば10cmほどの胃がんであっても内視鏡治療が可能なことがあります。がんの“顔つき”、深さ、大きさは内視鏡検査などで事前に確認し、患者さんの基礎疾患についても十分にチェックして治療が安全に行えるかどうかを判断します。特に、血液をさらさらにするための抗血栓薬を服用している場合は、抗血栓薬を一時的に中断する必要があるかどうかを、担当の神経内科や循環器内科の先生と相談した上で治療を行うようにしています。

内視鏡治療とは具体的にどのように行うのでしょうか。image

先ほどご紹介した内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)では、がんの周りにつけた目印の外側をナイフで少しずつ切り、剥がすようにしてがんを切り取ります(写真)。ESDでは広範囲に広がったがんを、ひとかたまりにして切り取ることができるため、確実にがんを取ることができたかどうかの判定が行いやすくなります。

左:がんの周りに目印となるマークをつけ、目印の外側を内視鏡から出したナイフで切り取る。

右:胃壁から剥がされた胃がん(赤い矢印)。切り取られたがんは胃から取りだされ、確実にがんが取れたかどうかの検査にかけられる。

写真提供:慶應義塾大学医学部腫瘍センター 教授 矢作直久先生 治療中に出血する、あるいは胃に孔があいてしまうことがありますが、止血鉗子やクリップといった機器で内視鏡的な処置が可能です。また、治療が終わった後に出血することがありますが、傷口をコーティングするお薬を使ったり、治療の翌日に内視鏡検査をして出血しそうな血管に対して処置を行うなど、十分な対策がとられています。また、治療後はがんを切り取ったあとの潰瘍の治りをよくするためにプロトンポンプ阻害薬(PPI)などが処方されます。

内視鏡治療の後にはどんなことに注意すればよいでしょうか。image

ピロリ菌の感染の有無を確かめて、感染していれば除菌することと、塩分控えめの食生活を心掛けることが大切です。加えて、最も重要なことは、定期的に内視鏡検査を受けることです。がんができるのは荒れて、萎縮の進んだ胃です。そのハイリスクの胃を抱えているということをしっかりと認識して、1年に1回は内視鏡検査を受けていただきたいと思います。

胃がんの予防や早期発見のために、読者のみなさんへアドバイスをお願いします。image

胃がんの予防においてもやはり、ピロリ菌の除菌が大事だと思います。それから、食生活では塩分を控えるということも大切です。
早期発見については、症状が無くても40歳以上の方、ピロリ菌が陽性と診断された方やがんの多い家系の方は内視鏡による検診を定期的に受けていただく、これが非常に重要です。または、ABC検診で自分がどの程度のリスクを持っているのかを把握し、ハイリスクの方は内視鏡検査を受けていただくとよいと思います。
現在はたとえがんになったとしても、早い段階で見つけることができれば、身体的に負担が少ない内視鏡治療が行えます。
内視鏡治療は、治療自体が患者さんの身体的負担が少ないというだけでなく、胃を残すことでその後の患者さんのQOL(Quality Of Life: 生活の質)の維持にもかかわってきます。胃がんの早期発見、早期治療のために定期的な内視鏡検査を心掛けていただければと思います。

イメージ
総監修 矢作 直久(やはぎ なおひさ)先生
慶應義塾大学医学部腫瘍センター 低侵襲療法研究開発部門 教授
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本消化器病学会専門医・指導医
日本内科学会認定医・指導医
1987年新潟大学医学部卒業。東京大学医学部第一内科入局後、東京大学医学部第一内科助手、東京大学保健センター非常勤講師併任を経て、2004年東京大学大学院医学研究科消化器内科特任講師。2005年虎の門病院消化器内科部長。2010年より慶應義塾大学医学部腫瘍センター 低侵襲療法研究開発部門 教授。
NextLifeオンライン
Vol.11 春号の冊子がご覧いただけます。
  • NextLife 冊子を保存する
  • NextLife 冊子を見る