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VOICE  Vol.16

正しい知識で「逆流性食道炎」と向き合う

逆流性食道炎は、胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流することで食道の粘膜に炎症が生じる病気で、最近では治療を受ける患者さんの数も増えてきました。
今回は、逆流性食道炎が起こるしくみ、患者数増加の原因から、治療とお薬に対する疑問までを、川崎医科大学 特任教授の春間賢先生に伺いました。

なぜ食道に炎症が起こるのでしょうか。

胃酸は、胃の中を消化酵素が働きやすい酸性にする、食べ物を殺菌するといった働きを持つ強い酸です。胃の中は粘液がたくさん分泌されているため、胃の粘膜が胃酸によって傷つくことはありませんが、食道は胃酸から粘膜を保護する仕組みがないため胃酸が逆流すると炎症を起こしてしまうのです。
食道と胃の境目にある下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)は、胃の中に食べ物が入って胃が動き出すと食べた物が食道に逆流しないように締まるのですが、それが何らかの理由で緩むことで逆流が起こりやすくなります。下部食道括約筋の緩みは、高齢で腰が曲がっている、肥満、力仕事、お腹を締め付ける服装などお腹に圧力がかかりやすい状態、あるいは脂肪の多い食事などが原因で起こります。
血液をさらさらにするお薬(抗血小板薬)や痛み止めのお薬が原因となることもあります。

患者さんの数が増えているのはなぜでしょうか。image

社会の高齢化、肥満者の増加、食生活の欧米化、ピロリ菌感染率の低下など、現代社会は逆流の起こりやすい環境へと変化してきています。肥満の人は腹圧の上昇に加えて、胃酸の分泌量が多いことがわかっていますし、脂っこいものを食べた時に分泌されるコレシストキニンというホルモンは下部食道括約筋を緩めるだけでなく、胃の動きを抑えてしまうため食べたものが胃に滞留して逆流しやすくなります。また、ピロリ菌に感染していない場合には、ピロリ菌による胃炎がないため胃酸がしっかりと分泌されるということがあります。睡眠時間が短い場合にも胃酸を含む胃液の分泌量が多くなるため、逆流が起こりやすくなります。
こういった逆流しやすい環境がそろってしまうことで、逆流性食道炎は一度治療しても再発してしまうことが少なくありません。

逆流性食道炎の症状にはどんなものがありますか。image

胸の辺りがむかむかする、気持ち悪いと、胸やけを訴える患者さんが一番多く、呑酸(どんさん)といって酸っぱいものが上がってくる感じや口の中に苦味を感じる方もいます。胸の痛みを訴える方もいらっしゃいますが、これは心臓の病気との鑑別が必要になります。他にも、起床時の喉のイガイガ感や不快感、喉の辺りがつまったような感じ、飲み込みにくい感じ、咳など様々な症状が引き起こされます。
こういった症状により患者さんはつらい思いをされていますから、治療ではまずは症状を取ること、そして食道炎を治癒させることが大切です。食道炎の治癒は、出血や狭窄(炎症が治る過程で食道の粘膜がひきつれて、食道が狭くなってしまうこと)といった合併症を防ぐことにつながります。

症状や食道炎の改善のために、どんな治療が行われるのでしょうか。image

生活習慣の改善は大事な治療の一環です。食生活では脂っこいもの以外にも、これを食べると症状が出るなと分かっている物、例えばケーキやお芋などを食べ過ぎないということが大切です。また、食後2~3時間以内には就寝しない、ストレスをできるだけ避けるよう心掛けていただくとよいと思います。タバコは下部食道括約筋を緩める要因の一つですから、禁煙も重要です。
お薬を使った治療では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの酸分泌抑制薬が使われます。PPIとは胃酸が分泌されるときに働くプロトンポンプと呼ばれる酵素の働きを阻害するお薬です。胃酸の分泌を抑えることで食道に逆流する胃酸の量を減らすことができます。PPIで治療した場合、多くの患者さんで症状の改善と食道炎の治癒が得られることがわかっています。

胃酸には体の中での役割があるとのことですが、胃酸の分泌を抑えても大丈夫なのでしょうか。image

PPIは、胃液の分泌を抑えるといっても100%抑えるわけではありません。海外では20年以上服用した方の報告もありますし、アメリカでは一般用医薬品としても市販されていますので、それだけ世界でも広く使われている薬だと考えていただいていいと思います。逆流性食道炎の治療では、処方された期間と量を守ってお薬をきちんと飲むことが大切です。

胸やけなど逆流性食道炎の症状を感じた場合、どうすればよいのでしょうか。
読者の皆さんへのアドバイスをお願いします。
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逆流性食道炎治療では長期にわたる症状のコントロールと合併症の予防が重要です。以前、「逆流性食道炎があるとバレット腺癌になる」という話がありましたが、バレット腺癌はまれな合併症であり、逆流性食道炎があったからといって即命に関わるような状況ではありません。ただし、食道炎が重症の場合にはバレット腺癌を起こす可能性もありますので、お薬をきちんと飲んで、食道炎をしっかりと治すことが大切です。
また、最初にお話ししたように、日本は逆流性食道炎が起こりやすい環境に変わってきています。不眠やストレス、脂っこい食事といった負のライフスタイルを次世代に引き継がないためにも、生活習慣の改善にぜひ努めていただきたいと思います。

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総監修 草野 元康(くさの もとやす)先生
日本内科学会指導医、日本消化器病学会指導医、日本消化器内視鏡学会指導医、
日本老年病学会指導医、日本消化器がん検診学会指導医、日本消化管学会胃腸科認定医、
日本がん治療暫定教育医 日本平滑筋学会理事長、日本消化器内視鏡学会理事、
日本食道学会監事、日本ヘリコバクター学会理事、日本神経消化器病学会理事
1975年広島大学医学部卒業。
1977年国立病院機構四国がんセンター。
1990年ドイツハノーバー医科大学留学、1992年米国メイヨークリニック留学などを経て、2001年川崎医科大学消化管内科教授。
2015年より川崎医科大学 特任教授。
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