NextLifeオンライン

VOICE  Vol.17

正しい知識で「逆流性食道炎」と向き合う

食生活の欧米化やピロリ菌感染率の低下など、日本人を取り巻く環境は変化してきています。
その中で増加しているのが逆流性食道炎です。
今回は、逆流性食道炎がどのような病気で、どのような治療が行われるのかについて、
日本医科大学消化器内科学 教授の岩切勝彦先生に伺いました。

逆流性食道炎とはどのような病気ですか。

最近はGERDという言葉をよく耳にされると思いますが、胃酸が逆流して起こる病気を総合して「胃食道逆流症(GERD(ガード))」と呼びます。逆流性食道炎はGERDの一種で、食道に炎症があるタイプを指します。胃酸が逆流し、食道の粘膜が炎症を起こしタダレてしまうことで、様々な症状が生じます。代表的な症状は胸やけで、「熱い」「チリチリする」と表現される方もいます。胃の痛みと誤解されることも多いのですが、逆流性食道炎による胸やけはみぞおちより上に生じることがポイントです。また、口の中に酸っぱいものがあがってくる「呑酸(どんさん)」という症状を訴える方も多いです。そのほか、胸痛 や咳といった症状が出ることもありますが、これらの症状は食後に出やすいということが特徴です。

なぜ胃酸が逆流してしまうのですか。image

胃と食道のつなぎ目には胃酸逆流を防止するための下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)というものがあるために、簡単には胃から食道への逆流は起こりません。健康な人でも食事摂取により胃が膨らむと、胃の中の空気を逃がす(ゲップ)ために下部食道括約筋がゆるみますが、同時に胃酸も食道内に逆流することがわかっています。また逆流性食道炎の患者さん(特に重症な患者さん)では、もともとの下部食道括約筋の収縮力が弱いこともあり、胃酸逆流が起こりやすくなっています。よって、胃が膨らんだ状態を起こす暴飲暴食はよくありません。また、肥満体型の人は、腹圧が高く胃が圧迫されるためやはり胃酸が逆流しやすくなります。胃酸逆流は食後2~3時間までに起こりやすいため、食べてすぐに寝てしまいますと逆流が起こりやすくなるだけでなく、寝ている間は逆流した胃酸を胃に押し戻す食道の動きが起こらないため、胃酸が長く食道にとどまって炎症がひどくなってしまいます。それから、便秘の方も注意が必要です。消化管は1本の管ですから、腸からの排出がスムーズでないと胃の圧力が上がり、胃酸の逆流を招きやすくなります。

ピロリ菌が逆流性食道炎に関係していると聞きましたが本当ですか。image

ピロリ菌に感染していない(ピロリ菌陰性)場合には胃酸の分泌が保たれているために、逆流が起こりやすくなります。昔は、歳をとると胃酸の分泌が落ちると言われていましたが、これは昔の日本人ではピロリ菌に感染している人(ピロリ菌陽性)が多く、ピロリ菌が引き起こす胃の炎症によって胃酸の分泌が低下するためです。ピロリ菌の除菌治療が広く行われるようになった今日では、高齢の方でも胃酸の分泌が維持されていることが多くなっています。また、高齢の方では、食道裂孔ヘルニアといって食道と胃の境目にある横隔膜より上に胃の 一 部が飛 び 出 す 病 気を持っているケースも少なくなく、こうした方がピロリ菌陰性の場合には逆流性食道炎が起こりやすくなります。
ピロリ菌陰性の方は今後ますます増えるため、逆流性食道炎の患者さんも増加していくと考えられています。

逆流性食道炎は、どんな治療が行われるのでしょうか。image

逆流性食道炎の治療は、生活習慣の改善と薬剤による治療があります。肥満の方は標準体重にしていただくことが一番です。それだけで胃酸の逆流がなくなったとおっしゃる方もいます。また、脂っこい食事は逆流を起こしやすいため避けていただき、暴飲暴食をやめて、腹八分目を心がけていただくことが重要です。便通のコントロールにも留意していただくとさらによいと思います。
お薬を使った治療では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの酸分泌抑制薬が処方されます。胃酸は色々な刺激によって分泌が促進されますが、最終的にはプロトンポンプを通って胃の中に分泌されます。PPIは胃酸分泌の最終段階であるプロトンポンプをブロックするお薬であり、逆流が起こりやすい食後も胃酸の分泌をしっかりと抑えてくれます。
逆流性食道炎の症状が特にひどい場合、患者さんの中にはお薬を使った治療で症状が改善したり、生活習慣を改善することで、生き生きと生活を送られるようになった方もいらっしゃいます。

逆流性食道炎かもしれない、と感じた読者の皆さんへのアドバイスをお願いします。image

逆流性食道炎は、症状の程度や頻度によって患者さんの生活の質(Quality Of Life)を大きく落としてしまうことがありますし、実際、逆流性食道炎の患者さんは症状に苦しんでいらっしゃる方が少なくありません。治療によって症状の改善が期待できる病気ですから、また元のように元気に日常生活を送れるようになるためにも、食後に胸やけや呑酸などの症状を感じた場合には、消化器専門医に一度ご相談いただくことをおすすめします。また、お薬による治療が始まったら、医師の指導を守ってきちんと服薬を続けていただくことが大切だと思います。

イメージ
総監修 岩切 勝彦(いわきり かつひこ)先生
日本消化器病学会認定専門医・指導医、
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化管学会胃腸科専門医・指導医、
日本内科学会認定医・指導医日本消化器病学会財団評議委員、日本消化器内視鏡学会社団評議委員、
日本臨床生理学会評議員、日本食道学会評議員、日本消化管学会代議員、日本消化器病学会機関誌編集員、
日本消化器病学会・GERD診療ガイドライン(改訂)作成委員会・作成副委員長、
日本食道学会・食道アカラシア取扱い規約検討委員
1986年日本医科大学卒業。
1998年日本医科大学第3内科講師。
2000年オーストラリア・Royal Adelaide Hospital留学を経て、2012年日本医科大学千葉北総病院消化器内科部長。
2013年同病院教授。2015年より日本医科大学消化器内科学教授。
NextLifeオンライン
Vol.17 秋号の冊子がご覧いただけます。
  • NextLife 冊子を保存する
  • NextLife 冊子を見る