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VOICE  Vol.18

正しい知識で「消化管傷害」と向き合う

消化管傷害とは、消化管に炎症や潰瘍を起こした状態で、痛みや不快感、食欲不振、吐き気といった様々な症状があらわれます。消化管傷害はピロリ菌の感染やストレスが原因で起こることが知られていますが、解熱・鎮痛・消炎などを目的に使われているお薬[非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)]の服用によって起こることもあります。
今回は、消化管傷害が起こる機序や症状について伺うとともに、循環器科でみられる消化管傷害の注意点などについて、東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科教授の中村正人先生にお話を伺いました。

どうして消化管傷害が起こるのでしょうか。

消化管傷害は、ピロリ菌の感染によって胃の粘膜に炎症が起こったり、ストレスによって粘膜を保護する働きがうまく機能しなくなることで起こりますが、NSAIDを服用している方では、NSAIDが消化管の粘膜を保護する方向に働く酵素の働きを阻害するために消化管傷害が起こることがあります。

消化管傷害ではどのような症状があらわれるのですか。image

一般的に、ピロリ菌の感染やストレスによる消化管傷害では痛みや不快感があらわれることが多いのですが、NSAIDによる消化管傷害の場合は痛みなどの症状が出にくいことが特徴で、潰瘍を起こした患者さんの多くが気づかないうちに出血を起こして、貧血によるめまいやふらつき、便が黒いといった症状を訴えます。このような消化管出血は、NSAIDを飲み始めた時に出やすいですが、長期間服用する場合でもそのリスクがなくなることはないため、NSAIDを服用している間は注意が必要です。

どのような患者さんに NSAID が処方されているのでしょうか。image

NSAIDは痛み止めとして関節痛を有する患者さんに対し多く使われています。また、循環器科で使用されるNSAIDの一つは、少量で使う場合には血液をさらさらにして、血管の中に血栓が作られるのを防ぐ抗血小板薬としての作用を発揮します。そのため、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞といった病気をすでにお持ちの患者さんに対して、血栓が作られるのを防ぎ、重大な病気(心筋梗塞、脳梗塞)が起こるのを予防するために用いられます。また、心筋梗塞や狭心症などで血液の流れが悪くなった心臓の血管に、血管を広げるためのステントを入れている場合も、ステントに血栓ができるのを予防する目的で処方されています。一方で、高齢、糖尿病、高血圧などにより、将来、動脈硬化症になる可能性のある人に対して、予防的に投与するという考えもありましたが、現在ではほとんど行われていません。
抗血小板薬として処方されているNSAIDは、循環器の病気をお持ちの方では基本的に生涯にわたる服用が必要です。

消化管傷害が起こった場合、どのような対策がとられるのでしょうか。image

基本的には、NSAIDの服用を中止し消化管傷害の治療が行われます。循環器の病気をお持ちの方では、自己判断で服用を止めると重大な病気(心筋梗塞、脳梗塞)が起こる場合があります。患者さんの状態によってその対策が変わることもありますので、必ず医師に相談してその指示に従ってください。
こういった消化管傷害は痛み止めをよく使うリウマチ患者さんに多かったのですが、最近では、循環器科における消化管傷害が増えてきました。これには、人口の高齢化や、糖尿病、高血圧の増加などで心臓の病気が増えたことが影響しています。特に循環器科では、潰瘍がもとで起こる消化管からの出血が注目されています。

では、どのようにしてNSAIDの服用を続けるのでしょうか。image

消化管に潰瘍ができたことがある方は、消化管出血などの合併症を起こすリスクが高いため、ピロリ菌が陽性の場合には除菌し、再発抑制のために胃酸の分泌を抑制するお薬を併用します。その他にも、高齢者、ピロリ菌陽性の方、抗凝固薬やその他の抗血小板薬を服用している方、ステロイドやその他の病気でNSAIDを服用している方なども消化管出血のリスクが高いことがわかっており、特に高齢者は、整形外科で痛み止めとしてNSAIDを処方されていることも多いですから、十分な注意が必要です。
胃酸の分泌を抑制するお薬には、NSAID投与時における胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発抑制の適応が認められているお薬もあることから、これらのお薬は、胃に何らかの症状が出た時だけ飲むのでなく、処方された期間はきちんと服用することが大切です。

読者のみなさんへのアドバイスをお願いします。image

抗血小板薬としてのNSAIDは非常に古くから使われている、費用対効果に優れたお薬ですが、最近、長期間服用した場合の問題点がわかってきました。消化管傷害もそのひとつですが、胃酸の分泌を抑制するお薬を服用したり、ピロリ菌を除菌したりすることで、消化管傷害のリスクが下げられることもわかってきています。心筋梗塞や狭心症、脳梗塞などを起こしたことがある方では、血液をさらさらにするためのNSAIDの服用とともに、胃酸分泌抑制薬の服用など消化管傷害を防ぐための対策が、心臓も胃もどちらも元気でいるためにとても重要なことだと思います。
また、NSAIDによる消化管傷害は胃に症状が出にくいことが特徴ですから、めまいがする、お通じが黒くなるといったような変化があった場合には、必ず主治医の先生に伝えて頂くことが大切です。

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総監修 中村 正人(なかむら まさと)先生
日本心血管インターベンション理事、日本脈管学会評議員、
日本循環器学会評議員、日本心臓病学会評議員、日本血管内視鏡学会評議員、
心血管画像動態学会評議員、TOPICコースディレクター、JETコースディレクター
1982年東邦大学医学部卒業。1984年東邦大学医学部内科学第三講座、1990年同講座助手。
1994年米国・Cedars-Sinai Medical Center留学を経て、2006年東邦大学医学部医学科内科学講座(大橋)准教授、2009年より東邦大学医学部医学科内科学講座(大橋)教授。
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