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VOICE Vol.19

正しい知識で「逆流性食道炎」と向き合う

近年日本人の間に増えつつある「逆流性食道炎」は、患者さんの日常生活にどのような影響をもたらし、どのような生活改善が求められているのか。「治療はまさに、患者さんの満足を目指して行うもの」という立場から日々診療にあたっておられる慶應義塾大学医学部医学教育統轄センター教授の鈴木秀和先生に伺いました。

逆流性食道炎とはどのような病気でしょうか?

胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流することによって生じる食道粘膜の炎症を、逆流性食道炎といいます。
胃酸の逆流は、明らかな傷口ができていない場合にも、胸やけ、呑酸(口の中に苦いような液体が上がってくる状態)、長引く咳や中耳炎、胸の痛み、あるいは「食べたものが飲み込みづらい」などの様々な症状を引き起こすことがあり、こうした胃酸逆流で生じる病気をまとめて胃食道逆流症(GERD)と呼びます。

どんな年齢層に多い病気なのでしょうか?image

逆流性食道炎は世界的に、比較的若年層(30歳代~50歳代)では男性、高齢(60歳代~70歳代)になると男女両方でみられ、重症例は若年男性に多い傾向にあります。
若年層での逆流性食道炎の原因として、最も大きな要因は食生活です。仕事の時間が不規則であるため食事の時間も不規則になる、お付き合いがたくさんあって食べ過ぎたり飲みすぎたりする機会も多い、またそのせいで肥満が増えるなど、いずれも食生活に関連しています。20歳代の時には痩せていたのに、こうした食生活を送るなかで急に太ってきた、といった人にはかかりやすい病気です。
一方、日本人の肥満は、男性では増えていますが、女性では増加はみられません。こうした背景もあり、若年女性では逆流性食道炎は少ない傾向にあると考えられますが、高齢になると腰が曲がることなどが原因となって増える傾向がみられます。

日常生活にはどんな影響があるのでしょうか?image

症状がひどい場合には、患者さんの日常生活に影響が出てきます。日常的に気分が優れず、夜間に症状が出る場合にはそのために目が覚めてしまって睡眠不足になるといったケースもあります。そうすると昼間に眠くなるので、仕事の能率は低下します。昼間の症状はだいたい食後に出ますから、ランチタイムの後などは胸やけで仕事にならないといったことが起こります。こうした症状があっても、日本のサラリーマンは勤勉で仕事を休むまでには至らないのですが、職場にいても仕事の能率が上がらず、労働生産性が下がってしまうのです。日本人のGERD患者さん650人を対象とした私たちの調査では、治療によって症状がコントロールできている人に比べて、そうでない人では、生産性の低下による経済的な損失はおよそ倍になるという結果が示されています1)。
こうして、良い睡眠はとれず、さまざまな症状のために食事も食べたり食べなかったりして、もともと不規則な食生活だったのがさらに不規則になり、生活リズムが非常に乱れてしまうことに繋がっていきます。「命に関わる病気じゃないから大丈夫だろう」と考えられがちですが、こうした日常生活への影響を考えると、確実にコントロールしていくことが大切です。

どのようなことをめざして治療を行うのでしょうか?image

長年にわたって症状のある方では、食後に胸やけがしたり、口の中に苦い液体が上がってくるなどして少々調子が悪くても、それが当たり前になってしまっていて、みんながそうなのだと思っている傾向もみられます。そんな患者さんが一歩踏み出して治療を受け、胸やけなどの症状から解放された状態を経験して初めて、治療の意味が分かっていただけるということがあります。こうして本来の日常生活を取り戻すことで、患者さんが「治療に満足できる」。逆流性食道炎治療はまさに、こうした患者さんの満足を目指して行うものと考えています。

生活習慣の改善も必要なのでしょうか?image

逆流性食道炎の根本的な原因は生活習慣にありますから、病気の成り立ちを考えると、生活習慣を改善しない限り根本的には治らない病気です。不規則な食生活があるならそれを治す、肥満や悪い姿勢が原因であるならば、それを是正する必要があります。長年続けてきた習慣を変えるのはハードルが高いという面もありますが、生活指導の中で患者さんの「気づき」をもたらすという側面もあります。例えば、胸やけなどのGERD症状のある患者さんに脂っこい食事は控えるよう指導したところ、「食事では脂っこいものは全く食べていない」とおっしゃられる場合でも、よく聞いてみると、実は食後にケーキなどの甘いものを欠かさず食べていて、それが原因となっていたというケースなどもあります。ですので、特に難治性の患者さんの場合には、朝・昼・晩の食事や間食も含めて何を食べ、何時に寝たかをメモにしてもらうようにし、それに基づいて指導をすることもあります。基本的に薬というのは、どんな病気であっても、生活習慣がどうしても是正しきれない場合の補助と捉えていただきたいと思います。

胸やけなどの GERD 症状でお困りの患者さんにアドバイスをお願いします。image

日常的に胸やけなどのGERD症状があって、仕事に集中できないといったような場合には、医師に相談することをお薦めします。症状を訴えて受診される患者さんの多くは、食道癌や胃癌などの悪性疾患に対する不安を持っていらっしゃいますが、内視鏡検査により逆流性食道炎と診断されるケースも多く、確実な診断がつくことで安心して治療に専念することができます。逆流性食道炎は再発を繰り返すケースが多いので、一度は医師に相談していただきたいと思います。
1) Suzuki H, et al. Neurogastroenterol Motil 26: 764-771, 2014

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総監修 鈴木 秀和(すずき ひでかず)先生
慶應義塾大学医学部医学教育統轄センター教授、日本内科学会(総合内科専門医・指導医)、
日本消化器病学会(専門医・指導医・財団評議員)、日本消化器内視鏡学会(専門医・指導医・評議員)、
日本肝臓学会(専門医)、日本医師会(認定産業医)、日本がん治療認定医機構
(暫定教育医・がん治療認定医)、日本プライマリ・ケア連合学会(認定医・指導医)、
日本ヘリコバクター学会理事、日本潰瘍学会理事、日本神経消化器病学会理事、
日本医学教育学会代議員、Rome委員会委員
1989年慶應義塾大学医学部卒業。1993年同大学院医学研究科博士課程修了後、
米国カリフォルニア大学サンディエゴ校で研究。2011年慶應義塾大学医学部内科学(消化器)准教授、
2013年同大学病院消化器内科診療副部長。2015年より同大学医学部医学教育統轄センター教授。
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