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VOICE Vol.20

正しい知識で「逆流性食道炎」と向き合う

逆流性食道炎は、近年、日本人に増えてきている消化器の病気です。逆流性食道炎の症状が患者さんの日常生活に支障をきたすだけでなく、ごくまれではあるものの食道に生じる傷により合併症を起こすこともあります。
今回は、逆流性食道炎の原因から診断と治療、内視鏡検査の重要性について、筑波大学附属病院 光学医療診療部部長・病院教授の溝上裕士先生にお話を伺いました。

逆流性食道炎とはどのような病気なのでしょうか?

本来、口から飲み込んだ食べ物は、食道から胃への一方にしか通らない仕組みになっています。しかし、色々な原因で胃の中の物、特にpH1~2という非常に強い酸(胃酸)が食道に逆流すると、食道の粘膜は胃酸に対しては無防備な状態のため、粘膜が荒れたり、傷ができたりします。このような逆流によって生じた食道の荒れや傷などを逆流性食道炎と呼びます。

逆流性食道炎の原因を教えてください。image

原因の一つにはピロリ菌が関係しています。ピロリ菌が長く胃の中に存在していると胃粘膜が萎縮し、慢性胃炎の状態になって胃酸が出にくくなるのですが、ピロリ菌に感染していない場合には、胃の働きが保たれているため、元気な胃から胃酸が正常に分泌されます。こうした状況で胃の中のものが逆流すると非常に強い酸が逆流することになるため、食道に傷ができやすくなります。最近の日本ではピロリ菌の感染率が低下しており1)、このことが日本で逆流性食道炎が増えている2)理由の一つと考えられています。また、高タンパク、高脂肪という欧米化された食習慣も胃酸の分泌を増やす要因であることがわかっています。
その他の原因として、高齢の女性に多い腰が曲がった状態や肥満、服用しているお薬の影響などにより、食道と胃の境目にある下部食道括約筋が緩んでしまうことで、逆流が起こりやすくなります。

どのような症状が出るのでしょうか?image

最も多い症状は胸やけですが、酸っぱいものが上がってくる感じも胃酸の逆流を示す重要な症状です。そのほか、げっぷやつかえ感、時には長引く咳といった症状が出ることもあります。これらの症状は夕食後や就寝後、あるいは農作業など前屈みの姿勢をとったときにも出やすくなります。
強い症状をお持ちの患者さんはそれほど多くありませんが、症状の程度は弱くてもずっと続いているという方が多くいらっしゃいます。症状が頻回に起こることで患者さんの生活の質は大きく影響を受けることが分かっていますから3)、生活の質を低下させないためにも、早めの治療が大切です。

診断はどのように行われますか?image

まずは、どのような症状が出ているかを丁寧に問診します。特に、患者さんの訴える「胸やけ」には様々な症状が含まれており、例えば胃の痛みなど他の病気が原因と考えられる症状を「胸やけ」と訴えられる場合もあります。逆流の存在を確かめるためにも、胸の後側が痛くなる感じがするか、酸っぱいものが上がってくる感じがするか、など具体的な症状についてしっかりと確認します。また、1年以上内視鏡検査を実施していない場合には、診断の時点で内視鏡検査を受けて頂くことをお勧めしています。これは食道がんや胃がんなどの悪性疾患を除外する意味でも非常に重要です。

治療について教えてください。image

逆流性食道炎の治療では生活習慣の改善に加え、胃酸の分泌を抑えるお薬を服用します。
アルコールや脂っこい食事をたくさん摂取してすぐに寝ることは、逆流性食道炎にとって一番良くない生活習慣です。こういった生活習慣を避け、アルコールを控えめにする、脂っこいものを食べ過ぎない、食べてすぐに寝ない、そして肥満の改善のための運動をすることなども心がけて頂くとよいと思います。

治療を受ける上で気をつけた方がよいことはありますか?image

逆流性食道炎の治療では患者さんの症状がなくなることが最も大切ですが、食道にできた傷を治すということもとても重要です。傷の程度が重い場合、まれに潰瘍を作って出血したり、傷ができたり治ったりを繰り返すうちに食道が狭くなってしまうことがあります。こうした合併症を防ぐためにも傷の治癒をしっかりと確認する、そのための内視鏡検査が非常に大切です。
また、逆流性食道炎の原因には生活習慣や肥満なども関係していますから、これらが改善されないと再発しやすいということにも注意が必要です。

逆流性食道炎で医療機関を受診されるみなさんへのアドバイスをお願いします。image

逆流性食道炎を疑って医療機関を受診されるときには、胃酸の逆流が関連するような症状を具体的に、例えば「酸っぱいものが上がってくる」といったように医師に伝えて頂くとよいと思います。
また、逆流性食道炎の診断と治療では、内視鏡検査が非常に重要です。診断の段階ではがんの可能性を否定する必要があります。また、逆流性食道炎は症状の程度と傷の程度が同じとは限らない病気です。そのため、治療によって症状がなくなった場合でも、傷が治ったことを確認することが必要なケースがあります。医師の勧めがあった場合には、ぜひ内視鏡検査を受けて頂きたいと思います。

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総監修 溝上 裕士(みぞかみ ゆうじ)先生
筑波大学附属病院 光学医療診療部部長・病院教授、
日本消化器病学会指導医、日本消化器内視鏡学会指導医、
日本消化器がん検診学会認定医、日本ヘリコバクター学会感染症認定医、
日本肝臓学会専門医、日本リウマチ学会専門医、日本東洋医学会指導医
1981年東京医科大学卒業、同年兵庫医科大学第4内科入局。1986年国立加古川病院内科医長。
2002年東京医科大学大学第5講座助教授。2009年蒲郡市民病院副院長兼消化器科部長。
2011年より現職。
1) Hirayama Y, et al. J Gastroenterol Hepatol 29 Suppl 4:16-19, 2014
2) e-Stat 政府統計の総合窓口(http://www.e-stat.go.jp/
3) Hongo M, et al. J Gastroenterol 42: 807-815, 2007
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